社会福祉法人聖ヨゼフ会肢体不自由児・重症心身障害児施設 聖ヨゼフ医療福祉センター
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ボイタ法について

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【1】ボイタ法の起源

 ボイタ法はチェコスロヴァキア出身のボイタ教授によって発見された『反射性移動運動』を利用した運動機能障害に対する治療法です。ボイタ教授は、子どもに特定の姿勢をとらせ、特定の場所(誘発帯)に適切な刺激を与えると、体幹と四肢に周期的な運動反応(筋収縮)が引き出されることを発見し『反射性移動運動』と名づけました。教授はその反射性の運動が新生児でも大人でも脳性麻痺児でも引き出されることを確かめ、人類の脳に生まれつき備わっている運動パターンであると考えました。その運動パターンは正常運動発達の過程では自然に現れて来ますが、脳性麻痺児では自然には出現することが出来ず、治療によって引き出す必要があります。引き出された反応を自分のものにする可能性は、脳の可塑性から考えても脳損傷の時期に近いほど、月齢が小さいほど大きいはずです。しかし、軽い脳性麻痺では1歳半〜2歳以上にならないと確定診断は困難です。そこで教授は独特の早期診断の方法を考案しました。

ボイタ教授について

 ボイタ教授は1917年7月12日、チェコ共和国のモロスキー/ボヘミアで生まれ、2000年9月12日、ミュンヘンで亡くなりました。彼は神経科医であり小児神経科医でもありましたが、肢体不自由児施設に勤めていた時に反射性移動運動を発見しました。1968年プラハの春・チェコ事件に出会い、ドイツに亡命した後、ケルン大学整形外科とミュンヘン小児センターで活躍し、1990年からは再びプラハのカールス大学で教鞭をとりました。ボイタ教授は多数の科学分野における表彰を受けておられますが、整形外科領域でもっとも卓越した人に与えられるハイネ賞の受賞は特筆に値します。

ボイタ博士

 

【2】早期診断の実際

 先ず、仰向きやうつ伏せでの赤ちゃんの姿勢の特徴を観察します。向き癖があると一方の手は舐めたり見たりできますが、反対側はできません。そんな赤ちゃんでは手と手を合わせて遊べなかったり、両手でオモチャを持つことが遅れたり、左右の母乳の飲み方が違っていたりします。それらができるように助けてあげただけでも、赤ちゃんは喜びます。動ける赤ちゃんでは寝返り・這い這い・お座り・つかまり立ち・伝い歩きなどの運動パターンに左右差がないか、発達順序の逆転がないかなどを観察し、7つの姿勢反応・原始反射・社会性の発達などを評価して診断します。ボイタ診断の大きな特徴は発達の遅れのみならず、不調和 (dysharmony) を観察することです。障害がはっきりする前の状態を中枢性協調障害・脳性麻痺危険児などと診断します。左右差の強い姿勢運動パターンの赤ちゃんが成長して脳性麻痺ではなく、学習障害・ADHD・自閉症などの発達障害の診断を受けることも少なからずあります。

【3】治療の実際

『反射性移動運動』には仰向きや側臥位にして始める反射性寝返りとうつ伏せで始める反射性腹這いがあります。反射性寝返りで出現する反応は生後3ヶ月から8・9ヶ月の正常発達に出てくる運動パターンです。これに比して反射性腹這いは正常運動発達に見られる腹這いそのものではありません。しかし、出現した反応は肘での支え方や足での蹴り方など正常な運動パターンの部分反応を示しています。それは脳性麻痺児にとっては自然には経験できないパターンです。ボイタ法は寝返りや腹這いそのものを練習しているわけではありません。

 

反射性寝返りT相
仰向けから一側に寝返り、さらに四つ這いに進んでいく運動パターンが反応として現れる。
第T相では出発肢位は仰向け。3ヶ月児のように、仰向けで両下肢を挙上し骨盤を傾け、4ヶ月半の寝返りの準備段階までの運動パターン(筋活動)を再現する。誘発帯は基本1つ。
反射性寝返りU相
第U相では出発肢位は側臥位。下側の上下肢で支え前方へ体幹を持ち上げ、上側の上下肢を上前方に振り出し、四つ這いになろうとする運動パターン(筋活動)を再現する。誘発帯は基本2つ。
反射性腹這い基本パターン
写真A 写真B
出発肢位はうつ伏せ。片方の肘で支え、そこに身体を持ち上げていこうと反対の踵で床を蹴り出し前方に腹這いするような動作が反応として現れる。正常発達でいうと、3ヶ月からの頭部持ち上げから4ヶ月半の片肢支持、さらには1才過ぎの歩行開始までの足部での支持や蹴りだし等の運動パターン(筋活動)が再現できる。誘発帯は基本9つ。
反射性腹這い応用パターン

ボイタ法の治療では理学療法士が御家族にお教えし、1日1〜4回毎日家庭で行ってもらうのが基本です。1日の回数は年齢その他によって多少異なります。赤ちゃんはいつもと違う運動パターンが起こって来ることにびっくりして、初めの内は治療中泣くことも多いですが、毎日行っていると慣れて泣かなくなります。治療が済んだ後、終わったことを伝えるために治療した人(お母さん)が抱いてあげるようにして下さい。全身運動をした後の恍惚感と相まって抱かれると同時にピタッと泣き止むようになり、治療してくれた人(お母さん)への愛着が強まっていきます。

【4】ボイタ法の治療効果

反射性移動運動のそれぞれによって治療中に起こってくる反応(筋活動)には違いがありますが、すべてに共通していることは、脊柱の左右対称的な伸展(背すじをまっすぐにすること)で、これこそ脳性麻痺児には絶対に不可能な運動パターンです。脊柱の対称的な伸展ができると頭を左右に回してオモチャを追視できます。両手を合わせて遊んだり、両足を触れ合わせたり、左右への寝返りも上手にできるようになります。肘での支えや手での支えが左右で同時に出来ることでうつ伏せの姿勢が安定し、回りを見回して遊んだり、手元のオモチャをなめて遊んだりできます。うつ伏せで左右に這って回転できるようになると視野は更に広がり、上下肢を交互に使う腹這い・四つ這い・一方の足を立ててのつかまり立ちを左右とも・机や壁での伝い歩き左右などと発達していけます。治療中に脊柱の左右対称的な伸展の反応が起こるとき、眼球の左右への運動、ゴクンと唾を飲み込む運動、深呼吸などの反応も起こります。呼吸筋・腹筋の収縮が起こると同時に膀胱や腸での筋肉の働きも強められます。このようにボイタ法の治療では、単に運動ができるようになるばかりでなく、表1や表2のような脳損傷児の早期兆候として見られる症状も改善します。こうした症状を重ねて示す赤ちゃんでは中枢性協調障害や脳性まひ危険児であることも多いのできちんと診断を受けて治療を始めることが大切です。これらの治療効果は乳幼児ばかりでなく、成人でも起こります。

表2;脳損傷児の早期兆候
(2.神経学的症状)

視覚

斜視。眼球振盪。落陽現象。
異常眼球運動。視線が合わない。
固視・追視しない。

聴覚
音に敏感。音に無反応。
筋トーヌス

手足が固い。股関節開排制限。
手拳が目立つ。抱きにくい。
体が柔らかい。そりかえりやすい。
足が震える。 びっくりしやすい。

触覚
痛みを感じないように見える。過敏。

痙攣

時々急に体を固くする。
顔や手足をピクピクさせる。
表1;脳損傷児の早期兆候
(1.お母さんが育てにくいと感じる症状)

哺乳

時間がかかる。量が少ない。
むせやすい。よく吐く。ムラがある。
音を立てて飲む。ゲップが下手。

呼吸

ゼーゼーしやすい。チアノーゼになりやすい。声が小さい。 泣き声が続かない。
余り泣かない。 風邪をひきやすく治りにくい。

睡眠

寝付きが悪い。眠りが浅い。中途覚醒。
昼夜逆転。断続睡眠。 眠ってばかり。
泣いてばかり。

排泄
便秘しやすい。ガスが多い。頻尿。
尿路感染症になりやすい。
体温
低体温。体温変動。手足が冷たい。
汗をかかない。多汗。

 

【5】治療の対象者

当然のことながら、治療効果を期待できる疾患は治療対象となりますが漫然と治療を続けるのでなく、目的を持ち効果を期待できる限り、乳幼児期から成人まで治療を続けることができます。

  1. 脳性麻痺・脳性麻痺危険児・中枢性協調障害
  2. 脳炎脳症後遺症・その他後天性疾患(成人の脳梗塞・脳卒中なども含む)
  3. 二分脊椎・分娩麻痺・脊髄損傷(事故後遺症も含む)
  4. 筋疾患・その他退行性疾患
  5. 染色体異常症・奇形症候群
  6. 呼吸障害・摂食嚥下障害
  7. 側彎症・斜頚・先天性股関節脱臼・臼蓋形成不全症・多発性関節硬縮症・骨関節疾患 O脚・X脚・内反足

【6】参考文献

ボイタ法による診断と治療についてさらに詳しくお知りになりたい方は次の本を参考にしてください。

  1. Vaclav Vojta著、富雅男訳 『乳児の脳性運動障害』 
    医歯薬出版株式会社(ボイタ教授原著の翻訳本で医師・療法士などの専門家用です)
  2. Vaclav Vojta, Annegret Peters 著、富雅男訳 『ボイタ法の治療原理』 
    医歯薬出版株式会社 (ボイタ教授原著の翻訳本で医師・療法士などの専門家用です)
  3. 家森百合子・神田豊子・弓削マリ子著  『子どもの姿勢運動発達』 
    ミネルヴァ書房 (写真が多く、お父さんやお母さんにもわかりやすくボイタ法について解説
    しています。医師・保健師・助産師・看護師・保育士の方々にもどうぞ)
  4. 長谷川功編著、吉田菜穂子他著 『新生児フォローアップガイド』
    診断と治療社 (主に乳児健診を行う医師・保健士にお勧めです)

 

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